向社会行動を支える心と社会の相互構築

日本学術振興会科学研究費助成事業

プロジェクトの概要

人間の社会性の神経心理学的・社会関係的基盤

人間は社会的な生き物です。

彼らは良くも悪くも、他者の存在、あるいは行動に対して無関心でいることはできません。向社会性と反社会性は、私たちの一部であり、それから逃れることはできません。しかし私たちは根本的に社会的な生き物であるという事実を認めても、それは良くも悪くも、私たちが「人間性」のなすがままであることを意味しません。この研究プロジェクトに関わる者が共有している一つの基本的な理解は、私たち全員にとってよりよい社会を構築するための最良の筋道は、私たちにポジティブあるいはネガティブな傾向があることを否定することにあるわけではなく、むしろ、こういった傾向が何であるか、どこから来たのか、そして我々の社会のなり立ちにどのような影響を及ぼしているのか、これらに関する科学的な知識を促進する必要があることです。これはまさに、この研究プロジェクトが目指していることです。
また、タイトルで人間のポジティブな面を強調していますが、私たちの関心はコインの表側にはもちろん、裏側にもあるのです。

心理学者、社会学者そして神経科学者のグループ(山岸俊男、坂上雅道、清成透子、品田瑞穂)によって2011年の6月に発足したこのプロジェクトは、日本学術振興会(#23223003)から研究助成金を与えられました。この助成金によって資金を供給された研究活動は、2016年3月までに完了する予定です。
プロジェクトの理論的背景の中心には社会的ニッチ構築アプローチがあります。この視点は私たちに、向社会性(例えば同情、感情移入、相互関係、公正さに対する懸念とその他)そして反社会性(例えば攻撃性、悪意、差別など)を含む人間の社会性についての分析を、人々が自分を取り巻く環境、特に社会的環境の角度から分析することを強く求めています。社会的ニッチ構築アプローチの特徴の一つは、社会環境はその環境の中に存在している人々によって作り出された生産物であると認識するところにあります。つまり、社会的環境に適応しようとすることによって、人々はまさにその環境を集合的に再構築しています。

このプロジェクトの活動は、神経心理学的メカニズムと社会―制度的環境の構築の両方の整理の共進化の過程やその結果に深く関わりを持っています。文化を超える研究であると同時に、学際的なものでもあります。国間・文化間の協力も、神経科学者、心理学者と社会科学者の間の協力も、私たちの研究にとって必須です。

私たちは、次にあげる二つの研究領域において研究を前進させることを目指しています。一つは、実験ゲームの状況における、ポジティブな面とネガティブな面の両方を含む他者配慮行動の研究です。この研究領域での実験的手法は比較的充実しているため、文化間で統制のとれた比較を行うのは難しくありません。
もう一つの関心領域は、上で述べた領域で得られたゲーム行動の背後にある神経活動を調べることです。これら2つの目標を共に追究することによって、人間の社会性への科学的理解は促進されると思います。
(研究代表者 山岸俊男)

プロジェクト代表 山岸俊男
プロジェクト代表
山岸俊男 やまぎし・としお
一橋大学大学院
国際企業戦略研究科特任特任教授
2011年6月にスタートした
当プロジェクトの研究代表者
http://www.human-sociality.net/toshio-yamagishi/