向社会行動を支える心と社会の相互構築
日本学術振興会科学研究費助成事業
研究方法の概要
本研究の中心となる実験研究は、多数の一般市民に対して3年程度にわたり繰り返し実験に参加いただくものである。一般市民参加者を対象とした実験では、異なる種類の個別のゲーム状況を越えた向社会行動の個人内での一貫性を明らかにすると同時に、そこで測定された汎ゲーム的向社会行動と対応する個人特性(人口統計学的特徴、一般的知能、感情的知能、共感性、人格特性、人間性及び社会のはたらきに関する各種の信念、社会的価値志向性をはじめとする個人的、文化的、社会的価値等)を測定する、基礎データの作成を行う。また、磁気共鳴診断設備による脳の構造の撮像や内分泌物質などの生理的指標データ、また顔写真による魅力度等の判断データも基礎データに含む。 また、意思決定の神経基盤の解明のため、大学生参加者を対象に実験ゲームにおける意思決定時の脳活動を、機能的磁気共鳴診断設備を用いて測定する実験も行う。
一般人を対象とした研究の内容
本研究の中心となる一般人を対象とする研究は、下記の手順において東京都下住民を対象とした参加者募集を行った上、2012年~2016年に渡って下記の第1~8回実験及び魅力判断実験、内分泌物質測定実験を実施した。その結果、各種経済ゲームを同一参加者に対して時期をずらしながら繰り返し実施し、同時に社会経済的要因、家族関係、生育状況、就業状況などの個人的要因、パーソナリティや知能をはじめとする各種の心理尺度に対する反応を蒐集して作成するデータベース作成作業は、そのほぼ9割程度を完了している。現在、これらの実験調査研究の結果が蓄積されるにつれ、各種経済ゲーム間の行動の関連性の分析が可能となり、本格的データ分析が開始され、分析結果を報告する論文の作成が進められている。さらに、今後2年に渡りさらに2回の実施を経て全データベースの作成を完了する予定である。
参加者募集:
2012年冬~春に、東京都町田市を中心に小田急小田原線とJR横浜線沿線在住の一般人家庭向けに、2回に分けて研究参加募集のチラシを計18万部配布した。応募の意思を表明した1670名から、年代・性別などのバランスを考慮したうえで600名(20代~50代、男女同数)を抽出し、第1回実験の参加案内を送付した。
なお、これら一連の実験は参加者のプライバシーを守るため、厳重な個人情報保護施策の下に行っている。
- 第1回
- 実施時期:2012年5月17日~2012年7月22日
- 参加人数総数:
- 564名(男性:273名 女性:291名)
- セッション数:
- 64セッション
- 各セッションの参加者数:
- 2名~10名
- 所要時間:
- 3~4時間
- 概要:
- 研究プロジェクト全体についての説明を行った後、知能検査を実施し、その後質問紙の回答を行い、最後に顔写真の撮影を行った。
- 内容:
- 京大NX知能検査
- 質問紙内容:
- 個人の特性や信念を測定する心理尺度(一般的信頼尺度、社会的用心尺度、相互依存性尺度、社会的価値志向性尺度(Triple Dominance法)、NEO FFI 人格検査、裏切り回避傾向、情動知能特性など)、人口統計学的項目 その他の課題:表情判断課題;合成写真の魅力判断課題;Holt & Larryリスク態度課題、顔写真の撮影(※後記の顔写真判断実験に使用)
- 第2回
- 実施時期:2012年10月6日~2013年2月16日
- 参加人数総数:
- 483名(男性:251名 女性:232名)
- セッション数:
- 72セッション
- 各セッションの参加者数:
- 3名~8名
- 所要時間:
- 最大9時間
- 概要:
- 行動実験+質問紙+その他の課題+MRIによる脳画像(VBM:Voxel Baced Morphometry )の撮像を行った。およそ半数の人が午前中に行動実験、質問紙の回答やその他の課題に参加し、午後脳画像の撮像を行った。残りの半数は午前中に脳画像の撮像、午後にその他の課題を行った。
- 行動実験の内容:
- 同時手番/順次手番囚人のジレンマゲーム(Prisoner’s Dilemma:PD)を行った。相手と同時に決定を行う同時PDを3回、決定に順序のある順次PDを行い、相手よりも先に行動を決められる順次自分先を3回、順次PD自分後を3回の合計9回を、毎回相手を変えて行った。ただし、順次PD自分後の場合には、相手が協力していた場合の行動と、相手が非協力していた場合の行動をあらかじめ決めておいた。各PD3回のうち、元手が順番に300円、800円、1500円に変動した。
- 質問紙内容:
- 個人の特性や信念を測定する心理尺度(地位関心尺度、報復傾向尺度、自己主張尺度、Autism尺度、対象別利他尺度、マキャベリアン尺度、サイコパス尺度、制御焦点尺度、Social Axiom尺度、悪評回避傾向、社会的価値志向性尺度(Ring measure法)、アレキシサイミア尺度、文化的自己観尺度、不安尺度、自尊心尺度、公的/私的自意識等)、人口統計学的項目追加(家族構成等)
- その他の課題:
- リスク選好課題、脳画像の撮像
- 第3回
- 実施時期:2013年4月27日~2013年6月22日
- 参加人数総数:
- 489名(男性:244名 女性:245名)
- セッション数:
- 55セッション
- 各セッションの参加者数:
- 5名~10名
- 所要時間:
- 3~4時間
- 概要:
- 行動実験(独裁者ゲーム2種類、信仰ゲーム)+質問紙+その他の課題+両手の指の長さの測定(手の画像のスキャン)を行った。
- 行動実験の内容:
- ・1回限りの独裁者ゲーム(Dictator Game:DG)を行った。同じセッションに参加している人とランダムに2人一組になり、一方が「分配者」、もう一方が「受け手」の役割になった。分配者の役割になった参加者は実験者から元手1000円が与えられ、それを自分と「受け手」の間で自由に分けた。「受け手」の役割になった参加者は分配者に分けられたお金を受け取った。なお参加者は相手を変えて両方の役割を1回ずつ経験した。
- ・元手変動DGを行った。「1回限りのDG」とは別の相手とランダムに2人一組のペアになり、DGを6回行った。ただしDGの元手金額が300円、400円、600円、700円、1200円、1300円の6種類あり、参加者はすべての金額を1回ずつ経験した。決定ごとに相手が変更された。最終的には6回の決定のうちの2回分の結果が実際に支払われた(「分配者」として1回、「受け手」として1回。
- ・信仰ゲーム(Faith Game:FG)を行った。参加者は元手として1000円与えられ、同じセッションに参加している人の中から、ランダムに「分配者」がペアの相手として割り当てられた。参加者は1000円のうちいくらを確実にもらい、いくらを相手に預けるかを決めた。預けたお金は3倍になり、分け手にわたった。預けなかったお金はそのまま受け手のものになった。「分配者」は、3倍になったお金を自分と「受け手」に分配した。この時の分配は、「1回限りのDG」での決定が用いられた。そのため、分配者が「1回限りのDG」で何割を相手に預けたかに応じて、信仰ゲームでの分配額が決まった。
- 質問紙内容:
- 個人の特性や信念を測定する心理尺度(BIG5尺度10項目版及びBFI版、Grit尺度、楽観性尺度、統合失調型パーソナリティ尺度、ベック抑うつ尺度、文化的自己観尺度(高田版)、主観的幸福感項目、共感性尺度(谷田版)、親和傾向と拒絶敏感性尺度、社会的価値志向性尺度(Triple Dominance法)、コントロール志向尺度、社会的賢さ戦略尺度、前頭葉機能尺度、Guanxi尺度、Signaling尺度、一般的信頼尺度、社会的用心尺度、LSAS社交不安障害尺度等) その他の課題:笑顔識別課題(BBC課題);Eye-task課題(アジア人版とヨーロッパ人版) 指の長さ測定(2D-4Dタスク)
- 第4回
- 実施時期:2013年9月2日~2013年10月26日
- 参加人数総数:
- 474名(男性:233名 女性:241名)
- セッション数:
- 53セッション
- 各セッションの参加者数:
- 6名~10名
- 所要時間:
- 3~4時間
- 概要:
- 行動実験(社会的ジレンマゲーム、囚人のジレンマゲーム、罰付き囚人のジレンマベーム)+質問紙+その他の課題を行った。
- 行動実験の内容:
- ・社会的ジレンマゲーム(Social Dilemma Game:SD) 参加者は、元手として1000円を与えられ、その1000円のうち、同じセッションに参加した人たちにいくらを提供するか決めた。提供したお金は2倍になり、全員に均等に分配された。提供しなかったお金はそのまま自分のものになった。こうした決定を同じセッションに参加した全員が行った。
- ・囚人のジレンマゲーム(Prisoner’s Dilemma:PD)を行った。参加者は同じセッションの参加者とランダムに2人一組になった。参加者は元手として渡されたお金を相手に提供するかどうかを決めた。提供するとその金額が2倍になって相手に渡された。提供しないと、元手をそのまま手に入れることができた。ペアになった相手も、同様にこうした決定を行った。
- ・罰付き囚人のジレンマゲーム(Prisoner’s Dilemma with the Punishment:PDP) 参加者は前述のPDゲームとは別のPDゲームを行った後に、自分の実験謝金の中から最大1500円を使って、相手を罰する(お金を差し引く)ことができた。罰のために使うと決めた金額は2倍にされて、相手の元手からひかれた。ペアになった相手も、同様にこうした決定を行った。なお、決定は相手の行動のパターンそれぞれに対して行う戦略法を採用している。
- 質問紙内容:
- 個人の特性や信念を測定する心理尺度(Influence and Adjustment Goals尺度 I & II、感情制御尺度、Implicit Theory尺度、サイコパス尺度 (PPI-R)、妬み個人差尺度、社会的賢さ戦略尺度、文化的自己観尺度(橋本版)、日本語版Bass-Perry攻撃性質問紙、Dialectical Self尺度、互恵性尺度、犯罪被害報告、社会的価値志向性尺度(Ring measure法)、Social Network Index、Mini-K尺度、生活史戦略尺度、親の養育態度(EMBU)、日本語版BDI-II(ベック抑うつ尺度)等)、人口統計学的項目追加(仕事における地位等)
- その他の課題:
- 時間割引課題、ペン選択課題、Risk Intelligence課題
- 第5回
- 実施時期:2013年12月16日~2014年2月23日
- 参加人数総数:
- 471 名(男性:228名 女性:242名)
- セッション数:
- 57セッション
- 各セッションの参加者数:
- 5名~10名
- 所要時間:
- 3~4時間
- 概要:
- 行動実験(信頼ゲーム、最後通牒ゲーム)+質問紙を行った。
- 行動実験の内容:
- ・信頼ゲーム(Trust Game: TG)を行った。参加者は、同じセッションに参加した人とランダムにペアを組んだ。一方は「預ける人」の役割になり、元手1000円のうちいくらを相手に預けるかを決めた。預けたお金は3倍になり、「分ける人」の役割になった相手に渡された。預けなかったお金は、「預ける人」のものになった。「分ける人」は、預けられたお金を自分(分け手)と相手(預ける人)にいくら分けるかを決めた。
- ・最後通牒ゲーム(Ultimatum Game:UG)を行った。参加者は、同じセッションに参加した人とランダムにペアを組んだ。一方は「提案者」の役割になり、自分(提案者)と相手(決定者)の間で元手1500円をどのように分けるかを提案した。「決定者」の役割になった人は、その提案を「受け入れる」かそれとも「拒否する」かを決めた。「受け入れる」を選ぶと、提案者の提案通りの分け方でお金を受け取ることができた。「拒否する」を選ぶと、お互いにもらえるお金は0円になった。参加者は相手を変えて両方の役割を1回ずつ経験した。なお「決定者」としての決定は戦略法で行った。
- 質問紙内容:
- 信頼尺度、山口集団主義尺度、縦型横型個人主義集団主義尺度(Singelis, Triandis, Bhawuk, & Gelfand, 1995)、共感性尺度(Davis, M, H. ,1983)、社会的価値志向性尺度(スライダー式)、Action Identification尺度、Locomotion and Assessment Scales尺度、Happy and Meaningful Life尺度、STAIX尺度1&2、 IEIS(Sasaki, 2012) 、SPR尺度第4版、自動思考尺度、JITB不合理信念尺度、親の養育態度尺度(PBI)、衝動性尺度
- 第6回
- 実施時期:2014年5月10日~2014年7月27日
- 参加人数総数:
- 470名(男性:227名 女性:243名)
- セッション数:
- 60セッション
- 所要時間:
- 3~4時間
- 概要:
- 行動実験(罰資金のない第三者罰ゲーム、罰資金のある第三者罰ゲーム、美人コンテストゲーム、修正版一方的最後通牒ゲーム、先制攻撃ゲーム)+質問紙を行った。
- 行動実験の内容:
- ・罰資金のない第三者罰ゲームを行った。参加者は、同じセッションに参加した人の中からランダムに選ばれ3人一組のグループになった。そのうち1人は「分配者」の役割になり、実験者から与えられた元手1500円のうちいくらを「受け手」へ分けるかを決めた。分けたお金は、受け手の役割になった人に渡された。残りの1人は「観察者」となり、分配者が受け手に分けた金額に応じて、罰金を科すことができた。罰を与えるためにはコストがかかった。具体的には分配者に100円の罰金を科すためには、その1/4の25円がかかった。分配者に科すことができる罰金の最高額は1500円だった。観察者は罰のための資金を自分の参加報酬の中から支払った。参加者はグループと役割を変えて3回決定を行った。なお、観察者としての決定は戦略法で行った。
・罰資金のある第三者罰ゲーム(Third party punishment game:TPP)を行った。観察者に罰を行うための資金として500円が与えられた以外は、罰資金のない第三者罰ゲームと同じであった。
・美人コンテストゲームを行った。参加者は、同じセッションに参加した人とランダムにペアを組んだ。お互いに0~100までの数字を選び、自分が選んだ数字が「相手の選んだ数字の半分」と同じになったら賞金として実験者から1000円をもらい、±3以内なら前後賞として500円をもらった。相手の選んだ数字が奇数だった場合は小数点以下が四捨五入された。
・改訂版一方的最後通牒ゲームを行った。参加者は、同じセッションに参加した人とランダムにペアを組んだ。一方は「提案者」の役割になり、自分(提案者)と相手(決定者)の間で元手1500円をどのように分けるかを提案した。「決定者」の役割になった人は、その提案を「受け入れる」かそれとも「拒否する」かを決めた。「受け入れる」を選ぶと、提案者の提案通りの分け方でお金を受け取ることができた。「拒否する」を選ぶと、自分(決定者)のもらえるお金だけが0円になり、提案者は提案したとおりのお金を受け取ることができた。参加者は相手を変えて両方の役割を1回ずつ経験した。なお「決定者」としての決定は戦略法で行った。
・先制攻撃ゲーム(Preemptive Strike Game: PSG)を行った。参加者は同じセッションに参加した人とランダムにペアを組んだ。参加者は、はじめに実験者から1500円を受け取った。各ペアのPC画面上には、30秒間押しボタンが一つ表示された。画面上のボタンをクリックするとボタンを押すことができた。このボタンを相手に先に押されると、元手からお金が差し引かれた。差し引かれるお金は、1000円の場合と500円の場合の2種類あった。ただし、ボタンを押すためには200円の費用がかかった。30秒を経過してもお互いにボタンを押さなかった場合には2人とも元手をそのままもらうことができた。ゲームは、差し引かれる金額を変えて複数回行われた。この金額は、2人とも1000円の場合、2人とも500円の場合、一方が1000円でもう一方が500円の場合があった。 - 質問紙内容:
- 一般的信頼・社会的用心尺度(Yamagishi, T. & Yamagishi, M., 1994)、社会的価値志向性尺度(Ring measure; Liebrand, W. B. G., McClintock, C. G., 1988)、自己効力感尺度(GSES; Ito,K. , Schwarzer, Ralf., & Jerusalem, M., 2005)日本語版、Big5(John, O. P., & Srivastava, S.,1999)、幸福感(Diener, E., Emmons, R. A., Larsen, R. J., & Griffin, S., 1985)、コミュニケーションスキル尺度(藤本・大坊, 2007)、インターネット依存尺度(Widyanto, L., & McMurran, M., 2004)、身長体重(自己申告) 、部活系に関する質問、ペットに関する質問、High-K 戦略尺度(Giosan, C., 2006)、Locus of Control日本語版(鎌原・樋口・清水, 1982)、日本版MLAM承認欲求尺度(植田・吉森, 1990)、帰属尺度(Kitayama, S., Ishii, K., Imada, T., Takemura, K., & Ramaswamy, J., 2006)、TFS(許し)尺度(Berry, J. W., Worthington, E.L. Jr., O'Connor, L. E., Parrott. L .3rd., Wade, N.G., 2005)、反応-積極的攻撃尺度(Raine, A., Dodge, K, Loeber,Rolf., Gatzke-Kopp, L.,Lynam, D., Reynolds, C., Stouthamer-Loeber, M., and Liu, J., (2006))、怒り表出尺度(Kitayama, S., et al, in press)、生活史戦略尺度、セルフモニタリング尺度(岩淵・田中・中里, 1982)
- 第7回
- 実施時期:2014年10月25日~2015年1月25日
- 参加人数総数:
- 451名(男性:230名 女性:231名)
- セッション数:
- 52セッション
- 所要時間:
- 3~4時間
- 概要:
- 行動実験(チキンゲーム・Go/NoGo課題・成人版心の理論課題)+質問紙+遺伝子分析のための唾液採取を行った。
- 行動実験の内容:
- ・チキンゲーム(Chicken Game:CG)を行った。参加者は「荷物運搬課題」(参考:Deutsch&Krauss, 1960)の説明文読み、コンピュータ上で課題に取り組んだ。この課題では「トラックの運転手」として荷物を無事に目的地まで届けることができたら300円をもらうことができた。荷物を速く届けられた時には1200円もらうことができた。参加者は同じセッションに参加した人とランダムにペアを組み、その相手と課題に取り組んだ。ペアのうち一方はコンピュータ画面に示された地図上の架空の都市A市を出発してB市へ、もう一方はB市を出発してA市へ荷物を届けることになっていた。二つの市をつなぐ道には、「近道」と「迂回路」の2種類があった。迂回路は、A市からB市へ向かう道と、B市からA市へ向かう道がそれぞれ一つずつあった。しかし近道は一本しかなかった。その上、道ばばが狭く脇道のなかったため、もしA市側からとB市側からの両方から2台のトラックが進入してしまった場合、道の途中ですれ違うことはできなかった。参加者は、この近道で鉢合せした場合に「進む」か「引き返す」のどちらかを選んだ。互いに「進む」を選んだ場合はトラックが衝突し、荷物を届けられなかった。届けられなかった場合には、もらえるお金が0円になった。一方が「進む」、もう一方が「引き返す」を選んだ場合、前者は1200円、後者は300円を手に入れた。両方とも「引き返す」を選んだ場合、両方とも300円をもらった。したがって、相手が「引き返す」を選ぶなら「進む」を選ぶ方が良いが、お互いにそう考えて「進む」を選ぶとトラックが衝突してしまい、もらえるお金が互いに0円になった。運搬が成功した場合にもらえる金額は荷物の種類に応じて変わった(①速1200円・遅300円、②速1200円・遅100円、③速400円・遅100円の3種類があった)。自分が決定するときに相手の決定を知ることができない同時決定状況、相手の決定を知ることができる自分後状況、自分が先に決定できる自分状況で何回か決定を行った。
・Go/No Go課題を行った。この課題ではコンピュータ画面に「M」か「W」という記号が提示され、参加者は、「M」が表示された場合には、500ミリ秒以内にキーボードのスペースキーを押すことと、「W」が表示された場合にはスペースキーを「押さない」でいることを求められた。提示は合計300回繰り返された。100回の提示が終わるごとに、1分間の休憩が挟まれた。参加者はボタン押しが成功(「M」が提示されたときにスペースキーを押す、あるいは「W」が提示されたときにスペースキーを押さない)するたびに、5円がもらえた。「M」が提示されたときにはスペースキーを押す、ということに条件づけられている状態で、「W」が提示されてもスペースキーを押さないようコントロールができるか否かが測定された。
・成人版心の理論課題を行った。参加者は同じセッションに参加した人とランダムに3人ひと組にされた。各人はその役割ごとに2つの選択肢を与えられ、どちらか一方を選んだ。この課題で各自がもらえる金額は、「自分と他の人の選択の組合せ」に応じて変わった。他の人どの選択肢を選ぶかを予測しながら、自分の選択肢を選ぶことができるかが測定された。 - 質問紙内容:
- 車の運転経験、学歴、金銭的余裕、身長(自己申告)、体重(自己申告)、ペットの飼育経験、宗教的関心、制御焦点尺度(Higgins, E. T. et al , 2001; 遠藤, 2011)、思考抽象度尺度(Vallacher and Wegner, 1989)、トロリージレンマ(Greene, J. D.et al., 2001)、社会的優越志向性尺度(三船・山岸, 2008)、裏切り回避傾向、一般社会調査の信頼性項目、信頼性の選好、道徳的基盤尺度(Graham et al, 2014)、衝動性に関する質問、ゆるし尺度(McCullough, 2010)、行動抑制系・行動賦活系尺度(高橋ら, 2007)、直接間接攻撃尺度(Green, L. R. et al , 1996)、正当世界尺度(Rubin, Z., & Peplau, L. A., 1975)、世間に対する怒り尺度、陰謀論尺度、公平性尺度、生活史戦略尺度(Figueredo, A. J.et al , 2006)、配偶における価値尺度(Kirsner, B. et al. , 2003)、リスク志向尺度、実験に対する態度尺度
- 第7回 遺伝子解析の内容
- 測定時期:
- 2014年10月25日~2015年1月25日
- 参加人数総数:
- 441名(男性:218名 女性:223名)
- 解析場所:
- 京都大学野生動物研究センター
- 解析時期:
- 2014年11月~
- 一般人を対象にした第7回の実験内にて、参加者の口内細胞を採取し遺伝子を解析することで参加者の遺伝子多型の判定を行った。
- 解析した遺伝子:
- オキシトシン受容体遺伝子(OXTR)rs53576、バソプレシン受容体遺伝子(AVPR1A)、セロトニントランスポーター遺伝子、ドーパミンD4受容体遺伝子
- 一般人の内分泌物質の測定実験
- 実施時期:2013年11月7日~2013年11月24日
- 参加人数総数:
- 男性100 名
- 所要時間:
- 0.5時間
- 概要:
- 病歴などに関する質問紙へ回答し、唾液(ホルモンサンプル)の採取、握力・身長・体重の計測を行った。
- 病歴等の質問紙:
- 病気の経験・手術の経験・現在の疾患・現在服用している薬・現在の健康状態・測定前日の飲酒・起床時間・朝食の摂取・朝食摂取時間・実験室到着までに歩いた時間・測定当日の激しい運動の有無・測定当日の喫煙の有無・口腔内出血の有無
- 身体的変数:
- 握力・身長・体重・体脂肪量・脂肪量・除脂肪量・筋肉量・体水分量・推定骨量・基礎代謝量・体内年齢・内臓脂肪レベル・脚点・BMI・標準体重・肥満度・筋肉の重さ
- テストステロンの測定値
- 唾液サンプルおよそ5ml採取後即時に冷凍保存し、後に個人情報等と切り離したうえで解析された
- 一般人の顔写真の魅力判断実験
- 実施時期:2013年7月29日~2013年7月30日
- 参加者:
- 北海道大学の学生
- 参加人数総数:
- 89 名(男性:63名 女性:26名)
- 所要時間:
- 1.5時間
- 概要:
- 顔写真に対して、魅力度あるいは信頼できる程度を回答した。
- 内容:
- 前述の玉川大学で行った一般人を対象とした実験の参加者のうち、写真撮影に同意した553名の顔写真(白黒)を用いた。写真には前髪を下した自然な状態と、前髪をヘアピンなどで上げ額が見える状態の2種類があった。写真を同一サイズの白黒写真に加工した上、同性別同年代のペアをランダムで提示した。参加者はペアで提示された写真のうちどちらが魅力的かまたは信頼できるか(参加者間要因)を選択した。この実験で得られた魅力度・信頼できる程度は前述の一般人実験の参加者の特性の一部として使用されている。
大学生を対象とした意思決定の神経的基盤実験研究の内容
向社会的または向自己的な傾向を持つ人の意思決定の神経的基盤を検討するため、大学生サンプルに対して予備実験を実施した上、予備実験の参加者の向社会性に基づき本実験の参加者を選別した。本実験では、機能的磁気共鳴診断設備を用いて、意思決定の最中の脳画像を撮像し、本人の特性や決定と脳の神経活動の関連を調べた。さらに本実験で得られた行動傾向の頑健性を検討するため、別の参加者群を対象に、神経活動を調べた課題を行動実験室内における追試も行った。
意思決定の神経的基盤に関する実験
- 予備実験
- 実施時期:第1回2011年11月28日、第2回2012年11月6日(追加分)
- 参加者:
- 青山学院大学の学部生
- 参加人数総数:
- 第1回140名、第2回157名
- 所要時間:
- 1.5時間
- 概要:
- 大教室内ですべての参加者が同時に1回きりの囚人のジレンマを行い、その後事後質問紙に回答した。
- 行動実験の内容:
- 1回きりの囚人のジレンマ実験。参加者はそれぞれ1000円の元手をうけとり、同じセッション内の参加者のだれかと二人一組になった(相手が誰なのかは開示されず、行動もすべて匿名性が保障されている)。参加者はペアの相手に対して、元手のうちいくらを提供するかを100円単位で決定した。提供された金額は2倍にされ相手に渡り、提供されなかった分は参加者の手元に残った。参加者が実験で獲得する報酬は手元に残したお金と相手から提供された金額の2倍の合計であった。決定はソクラテックナノを使い、瞬時的にコントロールマシンに情報が集約され、参加者は実験の最後に自分と相手の決定に基づいた決定の結果通りの報酬を得た。
- 事後質問紙内容:
- 行動実験に関する確認問題など、社会的価値志向性(Triple dominance法)、一般的信頼尺度、社会的用心尺度、相互依存性尺度、社会的価値志向性(Ring-measure法)、裏切り回避傾向尺度、社会的スキル尺度、マキャベリアン尺度、向社会性尺度、Big5 人格測定(NEO FFI版、BFI版、10項目版)、菊池社会的スキル尺度、SII相互独立―協調尺度、出生順位等の人口学的変数。
- 意思決定の神経的基盤実験の本実験
- 実施時期:2012年11月5日~2013年4月26日
- 参加者:
- 青山学院大学の学部生(前述の予備実験の参加者より選定)
- 参加人数総数:
- 41名
- 所要時間:
- 3時間
- 概要:
- 参加者は説明等を受けた後、機能的磁気共鳴診断設備内で1回手番の順序付き囚人のジレンマゲームの意思決定を60回行った。その後事後質問紙に回答した。
- 行動実験の内容:
- 1回手番の順序つき囚人のジレンマ実験。参加者は自分と別室にいるほかの参加者のうちのだれかとペアになり順序付きの囚人のジレンマゲームを複数回行うことを教示された(相手は毎回の決定ごとに変わり、相手が誰なのかは開示されず、行動もすべて匿名性が保障されている)。順序付き囚人のジレンマゲームの半分では参加者が先に決定し、残りの半分の回数では相手が先に決定した。毎回の元手の金額は100円、200円、400円のうちのいずれであった。参加者先決定の場合、参加者はペアの相手に対して、その回の元手を提供するかそれとも手元に残すかをボタン押しで決めた。提供した場合相手は元手の2倍をもらう。相手は参加者の決定を知らされたうえで、今度は自分の元手を参加者に提供するかどうかを決定した。相手先決定の場合は、相手が先に参加者に元手を提供するかどうかを決定し、参加者はその決定を知らされたうえで自分の行動を決定した。決定の順番はブロック式でカウンターバランスを取った。最後に、全60回の決定のうちランダムに5回の結果が選ばれ、参加者はその5回で得られた金額の合計と実験参加の基本報酬を合わせてもらった。
- 事後質問紙内容:
- 行動実験に関する確認問題など、社会的価値志向性(Triple dominance法)、一般的信頼尺度、社会的用心尺度、相互依存性尺度、社会的価値志向性(Ring-measure法)、裏切り回避傾向尺度、社会的スキル尺度、マキャベリアン尺度、向社会性尺度、Big5 人格測定(NEO FFI版、BFI版、10項目版)、菊池社会的スキル尺度、SII相互独立―協調尺度、出生順位等の人口学的変数。
- 行動実験の追試実験
- 実施時期:2014年2月3日~2014年2月6日
- 参加者:
- 北海道大学の学部生
- 参加人数総数:
- 163名
- 所要時間:
- 1時間
- 概要:
- 1回手番の同時決定囚人のジレンマゲーム30回+事後質問紙+その他の課題
- 行動実験の内容:
- 1回手番の同時決定囚人のジレンマ実験。参加者は自分と別室にいるほかの参加者のうちのだれかとペアになり同時決定の囚人のジレンマゲームを複数回行うことを教示された(相手は毎回の決定ごとに変わり、相手が誰なのかは開示されず、行動もすべて匿名性が保障されている)。毎回の元手の金額は100円、200円、400円のうちのいずれであった。参加者は相手にその回の元手を渡すか渡さないかを決定し、相手も同時に決定した。渡たす場合は相手は元手の金額の2倍をもらった。最後に、全30回の決定のうちランダムに5回の結果が選ばれ、参加者はその5回で得られた金額の合計と実験参加の基本報酬を合わせてもらった。
- 事後質問紙内容:
- 行動実験に関する確認問題など、社会的価値志向性(Triple dominance法)、一般的信頼尺度、社会的用心尺度、GSS・WVS信頼項目、社会的価値志向性(Ring-measure法)、社会的価値志向性(Slider法)等。
その他の課題:Social mindfulness 課題