向社会行動を支える心と社会の相互構築
日本学術振興会科学研究費助成事業
第1回国際ワークショップ
向社会行動を支える心と社会の相互構築に関する国際ワークショップ第1回
2012年1月29日~2月1日 東京 芝パークホテルワークショップは東京の中心にある芝パークホテルにおいて、二日に渡って行われました。まずはすべての参加者が自分たちの研究内容や興味を全員に向かって発表し、次に1日をかけて今後の国際的な共同研究をいかに効率よく行うべきかについての議論が行われました。山岸俊男からの短いオリエンテーションの後、参加者は、プロジェクトの間で解決すべき問題についての様々な意見交換を行いました。その中でも特に重点的に話し合いが行われたのが、異文化間レベルでの共同研究がもたらすものの意味、そしていかに連携を取るかなどのトピックでした。すべての課題を解決するには至らなく、いくつかの問題は初めの議論として触れたものの、その場では解決策に至らず、また、問題として提起されていないこともあったでしょう。しかし我々は今後の進行においての一般的な原則をいくつか確立することができました。そして何よりもまず、このような議論の継続を可能にするフォーラムを行うことを決めました。
目的と課題
この研究プロジェクトの目的は、特に実験ゲームの文脈において、人の向社会性を理解することに対する社会的選好アプローチの限界を確認することです。研究者は実験において参加者が向社会的に行動することを発見しています。これらの実験ゲームにおける向社会行動に対する簡単な説明は、向社会的な選好は進化的、文化的そして制度的に支持されているということです。
しかしながら、実験ゲームにおける向社会行動を向社会的選好から説明するためには、向社会行動が状況特定的であるという問題をもたらします。例えば、多くの人は、たとえ自分の行動が完全な匿名的であるにしても、1回限りの独裁者ゲームにおいて、いくらかのお金をもう一人の参加者へ渡します。しかし、恵まれない人々に自発的にお金を与える人はそう多くありません。さらに、どのような実験的状況のフレームを与えるかによって参加者の行動が大いに影響されることも知られています。向社会性の状況特定的な性質を知るための最初の一歩として、このプロジェクトは、各種タイプの実験ゲームにおける参加者の行動を比較することで、ゲーム間の行動一貫性およびその欠如に対して向社会的選好もつ説明力を検証することを行います。
国際協力は、この研究プロジェクトの重要な側面を構成しています。反復検証、特に異文化や異なる社会間で実験を反復することは、人間の行動に関する実験的研究において重要な役割を果たしています。それは、ある実験における発見は、実験で用いた特定の研究方法および実験参加者の特殊性によって強く影響され得るからです。このワークショップの主要目的は、国際的な共同作業用の一般的な戦略を計画するために異なる国々および文化から研究者を集めることにあります。
NSFPSBでの研究活動計画
- 異なるタイプのゲーム間の行動の比較
私たちは、同じ参加者に異なるゲームをさせて、彼らの行動がそれらのゲームでどのように変化するかを調べます。向社会的な人は、囚人のジレンマゲーム、独裁者ゲーム、信頼ゲーム、信仰ゲームなどで同じような行動をしめすでしょうか?課題1:どのゲームを使うべきか
- さまざまな種類のゲームの間で一貫して向社会的な行動を説明する心理的指標の開発。
課題2:SVO尺度に加えて、なんの心理学尺度が候補でしょうか。
- 異なる種類のゲームでの行動に対して一貫して影響を与えている向社会的な選好の神経科学的な基盤は何か?
私たちは神経科学者との連携により何を得ることができるか?
- 異なるタイプのゲーム間の行動の比較
上記のトピックを議論することに加えて、私たちは、国際共同研究を計画・実施する方法について議論します。
研究者によってはどのような・どのレベルでの共同研究が好ましいかは異なります。そのため、共同作業を進めるうえではこういった個々の好みをどう調整するかが大きな問題となります。課題4:国際協力を組織化する方法
出席者
Winton W. T. Au (Chinese University of Hong Kong), Su Lu (Chinese University of Hong Kong), Karin S. Moser (Department of Psychology, Roehampton University), Timothy Shields (Economic Science Institute, Chapman University), Eric Schniter (Economic Science Institute, Chapman University), Ramzi Suleiman (Haifa University), Ying-yi Hong (Nanyang Technological University), George Christopoulos (Nanyang Technological University), Mark Khei (Nanyang Technological University), Pontus Strimling (Stockholm University, Centre for the Study of Cultural Evolution), Dorota Markiewicz (The Robert B. Zajonc Institute of Social Studies, University of Warsaw / Institute of Psychology, Jagiellonian University), Mike Kuhlman (University of Delaware), Chad Forbes (University of Delaware), Gokhan Karagonlar (University of Delaware), Adam Stivers (University of Delaware), Enrique Fatas (University of East Anglia), Brent Simpson (University of South Carolina), Xiao-Ping Chen (University of Washington), Carolyn Dang (University of Washington), Paul A.M. van Lange (Vrije Universiteit, Amsterdam), Daniel Balliet Vrije (Universiteit, Amsterdam), Jelte ten Holt Vrije (Universiteit, Amsterdam), Niels van Doesum (Vrije Universiteit, Amsterdam), Toshio Yamagishi (Hokkaido University), Masamichi Sakagami (Tamagawa University Brain Science Institute), Alan Fermin (Tamagawa University Brain Science Institute), Toko Kiyonari (Aoyama Gakuin University), Nobuhiro Mifune (Kobe University), Yutaka Horita (Sophia University), Nobuye Ishibashi (Hokkaido University), Yang Li (Hokkaido University), Arisa Miura (Hokkaido University), Dora Simunovic (Hokkaido University)
第2回国際ワークショップ
向社会行動を支える心と社会の相互構築に関する国際ワークショップ第2回
2014年9月23日 青山学院大学相模原キャンパス第2回ワークショップは青山学院大学相模原キャンパスで開催されました。同ワークショップは向社会行動の維持と促進のメカニズムに着目するものであり、その中でもきわめて重要とされている報酬と罰の役割についての議論を中心に行われました。報酬と罰についての実験的研究の専門家であるLeiden UniversityのDr. Erik de Kwaadsteniet氏とWelmer E. Molenmaker氏がそれぞれ最新の研究成果について発表を行い、その後、参加者全員による議論を行いました。
まず、de Kwaadsteniet氏が「When does sanctioning give leaders a good reputation? Evaluations of Punishers and Rewarders in Noisy Social Dilemmas」のタイトルで、集団の中で協力行動を維持するしくみに関する発表を行いました。
集団の中の相互協力を維持するためには、協力的な振る舞いをした人に対して報酬を与える、もしくは非協力的な振る舞いや、ただ乗り行動をした人を罰することが有効だといわれています。この研究では、そのような罰・報酬行動がしばしば集団のリーダーによって実施されていることに焦点をあてます。しかしながら、この罰・報酬行動を実施するにはコストがかかるため、リーダーにとっては「損をする」行動になってしまうことが問題になります。そのように損になる行動をいつまでも続けることは困難だからです。集団内のリーダーによる協力維持システムが長期的に円滑に機能し得る(あるいは進化的な文脈から考える場合)には、罰・報酬行動を行うことによってリーダーに何らかのメリットが得られなければなりません。de Kwaadsteniet氏は、そのメリットが「リーダーの評判」にあるのではないかと考え、社会的ジレンマ状況において適切な罰・報酬行動がリーダーに良い評判をもたらすかを検討する実験を行いました。発表ではその結果の一部が紹介されました。この研究は、当研究プロジェクト分担者である清成透子氏と共に実施している国際共同研究の一部でもあります。
発表の後に、これらの結果の理論的解釈についての議論が交わされました。次に、Molenmaker氏は人々が罰や報酬を与える動機の特定についての研究成果を発表しました。人々が罰と報酬のどちらをより好んで用いるかに影響する要因の一つに、「その行動が求められている状況」があります。この研究では、public good dilemmas とcommon resource dilemmasの二つのジレンマ状況の違いによって、罰行動と報酬行動が選ばれる程度が異なるかが検討されました。public good dilemmasは、集団のメンバーがそれぞれ集団全体の公共財へ「投資する/しない」を決定する状況で、common resource dilemmasは集団のメンバーがそれぞれ集団全体の公共財から「どれくらい資源を取ってくるか」を決定する、という状況です。いずれの状況でも、協力的な人は公共財へ多く投資する、ないし公共財からあまり資源を取らない、といった行動パターンを示し、非協力的な人の行動パターンはその逆になると考えられます。この意味で、二つの状況は非常に似ているように思えます。ところが、実際に実験をしてみると人々はpublic good dilemmas状況の場合に、より協力的な人(集団の公共財に多く貢献した人)に報酬を与え、逆にcommon resource dilemmas状況ではより非協力的な人(集団の公共財から資源を多く取った人)を罰する、という結果が得られました。このように、構造が非常に似ている状況同士でも、状況の違いに応じた罰・報酬行動の違いが見られたことは、協力行動を促進するための行動がどういった動機で行われているかについて、非常に重要な情報を提供するものとなります。
出席者
Erik de Kwaadsteniet(Leiden University)
Welmer E. Molenmaker(Leiden University)
山岸俊男(一橋大学)
清成透子(青山学院大学)
松本良恵(玉川大学)
李楊(玉川大学)
新井さくら(東京大学)
井上裕香子(東京大学)
國政朱里(青山学院大学)
園部海里(青山学院大学)
第3回国際ワークショップ
向社会行動を支える心と社会の相互構築国際ワークショップ第3回
2015年6月26日~29日 Similam Hotel(万悦酒店)第3回ワークショップは中国珠海の Similam Hotelで開催されました。同ワークショップは向社会行動にかかわる各参加者の最新の研究について報告し、その後、参加者全員による議論を行いました。
発表の後に、これらの結果の理論的解釈についての議論が交わされました。出席者
山岸俊男(一橋大学)
坂上雅道(玉川大学)
高橋伸幸(北海道大学)
清成透子(青山学院大学)
高岸治人(玉川大学)
松本良恵(玉川大学)
李楊(玉川大学)
仁科国之(玉川大学)
Alan De Souza Rodorigues Fermin(玉川大学)
Adam Stives(University of Delaware)
Catharine Malho(VU University)
Daniel Balliet(VU University)
David Kuhlman(University of Delaware)
Dorota Markiewicz(University of Warsaw)
Kimmo Eriksson(Mälardalen University)
Leonard S. Peperkoorn(VU University)
Niels van Doesum(VU University)
Paul A. M. Van Lange(VU University)
Pontus Strimling(Linköping University)
Yiming Jing(University of Delaware)